抗生物質や免疫抑制剤など人間社会に有用な化合物の多くは微生物によって生産されます.
 タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアなどの亜熱帯諸国は、生物多様性に富み、未知の微生物の宝庫です.特に植物内に生息する微生物(植物内生菌)、昆虫内に生息する微生物(昆虫内生菌)、また各国に特有な発酵食品に由来する微生物には未開拓の微生物が多数存在し、有用物質の生産菌として高い可能性を秘めています.
 タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアの研究者と協同して、これら未開拓のソースより微生物を単離・収集し、その培養生産物から抗生物質やバクテリオシンなどの人類に役に立つ新規な生理活性物質を見いだし、その化学構造を決定します.また、この生産菌を用いた効率的な生産プロセスを開発します.
【全期間にわたる研究交流活動及び得られた成果の概要】
タイ各地で採集した放線菌株の培養スクリーニングをタイのMahidol大学にて実施して新規物質生産菌を選抜しました. その際に、タイ大学独自の代謝物データベース構築を進め、今後は、タイで微生物由来の生理活性物質研究を独立して推進できるものと期待できます. 培養スクリーニングでは、3種類の発見がありました.新規α−ピロン、新規修飾アミノ酸jomthonic acid類と新規マクロライドjomthonolide類です. これらの化合物は肥満など生活習慣病の改善に寄与する薬剤への応用が期待できます. また、新規ピロンからも寄生虫駆除薬としての応用に期待が持てます.
 タイやベトナムの発酵食品をはじめとする様々な分離源からは、諸特性の解析をしました. 新奇バクテリオシン生産乳酸菌のスターターカルチャー等への応用やバクテリオシンの食品保存等への応用にもつながりました.  これらのことは該当する知識と技術を備えた若手人材が育成されて、現地に定着することになりました.
【平成25年度研究交流の成果】
研究交流活動:若手研究者交流として、日本側からマヒドン大へ1名26日間、BIOTECへ2名(内1名は別経費)22日間 、またカンボジアとラオスの若手研究者がそれぞれマヒドン大で61日間滞在して共同研究に従事しました.

研究交流の成果:本年度は抗ガン活性を持つjomthonolideの医薬シーズとしての評価を行うべく研究を進めました. 本菌の全ゲノム配列を決定しました. タイおよびベトナムの発酵食品や野菜等を分離源として、新奇バクテリオシン生産乳酸菌のスクリーニングを行いました.その結果多数の乳酸菌株から新奇性の高いバクテリオシンである可能性がある抗菌活性が検出されました.    昨年度に引き続き、発酵ソーセージから分離された乳酸菌が生産するバクテリオシンの構造および諸特性の解析を試みました.本株からは優れた特性を有しており、食品保存料をはじめとする様々な分野への応用に適しています.  これまでに構造を決定した、ガルビエシンQについて、引き続きその生合成遺伝子群の解析を行ったところ、ガルビエシンQ構造遺伝子の周辺領域には、ガルビエシンQの生合成に関わると予想される遺伝子群が見出されており、それらの異種発現株の構築と、それを用いた各遺伝子の機能解析を試みました.現在までに推定自己耐性遺伝子garIの異種発現株の構築に成功しています.
【平成25年度研究交流の目標】
 タイ及びベトナムの共同研究者の協力を得て単離された有望な微生物にたいして、代謝工学的・培養工学的知見を加味して、遺伝学的解析・改変を行い、タイおよびベトナムの産業バイオに有効な菌株を育種します. 
 昨年度発見した新規バクテリオシンは魚病の原因病原菌に対して、特に強い抗菌活性を有することから、本バクテリオシンの異種発現系の構築と魚病の予防や治療への応用展開を検討します.
 また、新規生理活性物質の探索を継続し、より広範囲の化合物種の構造を決定するとともに、タイ、ベトナムにおいて生理活性物質スクリーニングと簡易精製が実施可能な研究環境を構築します.
【平成24年度研究交流の成果】
研究交流活動: 日本人研究者3名がタイへ延べ90日間、ベトナムへは3名が34日間、カンボジアへは1名が11日間滞在し共同研究を実施しました.また他経費で若手研究者が5名が110日間タイに滞在しました. 反対に日本へはタイから1名が17日間、ベトナムからは1名が58日間研究滞在し共同研究を実施しました.
若手研究者への研修プログラムではカンボジアから1名が51日間、ラオスから1名が63日間マヒドン理学部内にある東南アジア共同研究拠点大阪大学・生物工学国際交流センターで研修を受けました. 

研究交流の成果: 従来微生物探索の標的とされてきたのは温帯域の微生物でしたが、熱帯・亜熱帯域の微生物群は、温帯域の微生物群とは顕著に異なった生産物プロファイルを示すとの風評がありました、そこで本プロジェクトで検討した結果、極めて高頻度で抗菌物質生産能を示すだけでなく、新規化合物の生産能も非常に高く、これらのことは熱帯・亜熱帯域の微生物群が化合物探索の新たなソースとして非常に有望であることを立証しました. また、この実験過程で、微生物分離、標的化合物の決定、化合物精製、さらには構造決定に関して豊富な知識と経験を有する人材が育成され、方法論がタイに定着しました. 特に、ラオス、カンボジアからの若手研究者にとっては母国では指導者の不足、並びに資材不足のため習得できない技術を習得したことによって、母国に持ち帰り研究技術を後進および生物界に広めていく活動が始まっています.
【平成24年度研究交流の目標】
タイ及びベトナムの共同研究者の協力を得て単離された有望な微生物にたいして、代謝工学的・培養工学的知見を加味して、遺伝学的解析・改変を行い、タイおよびベトナムの産業バイオに有効な菌株を育種します. 
また、昨年度発見した新規バクテリオシンは魚病の原因病原菌に対して、特に強い抗菌活性を有することから、本バクテリオシンの異種発現系の構築と魚病の予防や治療への応用展開を検討します.
 さらに、新規生理活性物質の探索を継続し、より広範囲の化合物種の構造を決定するとともに、タイ、ベトナムにおいて生理活性物質スクリーニングと簡易精製が実施可能な研究環境を構築します.
【平成23年度研究交流の成果】
研究交流活動: 日本側研究者4名がタイへ延べ87日間、ベトナムへ2名が22日間、カンボジアへは1名が7日間滞在しました.若手研究者への研修プログラムではカンボジアから2名が57日間、ラオスから2名が81日間マヒドン理学部内にある東南アジア共同研究拠点大阪大学・生物工学国際交流センターで研修を受けました.

研究交流の成果: 植物内生菌、昆虫内生菌や発酵食品など、タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアの未開拓ソースよりの微生物単離を前年度から継続して実施し100以上の微生物を単離しました.5種類の培養条件で培養を行い、培養抽出物を調整し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High performance liquid chromatography)にて培養抽出物中の生産物プロファイルを解析した結果、20以上の標的となる生理活性物質の生産菌を発見しました.有望な候補化合物について、単離・構造決定を行った結果、3種の新規構造体を同定し、各種生理活性を検討したところ、前駆脂肪細胞の分化誘導活性を持つことを見いだしています.タイ産乳酸菌より新規なバクテリオシン3種を見いだし、一種については精製が終了しました.また一種については該当生合成遺伝子を見いだすに至っています. 魚病の予防と治療への応用へと展開するべく、異種発現系の構築に着手しました.
【平成23年度研究交流の目標】
薬用植物、土壌、昆虫などよりの微生物分離を継続します.前年度までに分離した微生物、及び新たに分離した微生物を5種の異なる培地組成にて液体培養を行い、有機溶媒抽出により抽出サンプルを調整します.抽出サンプルについて、高分解能HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析を行い、各微生物が生産している化合物プロファイルを測定すると同時に、既知化合物データベースとの照合により、未知物質候補を決定します.候補化合物を生産する微生物を順次大量培養し、有機溶媒抽出、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、固相分配、逆相HPLCにより単一ピークにまで精製します.必要量を確保した後、高分解能一次元、二次元(核磁気共鳴)NMR(nuclear magnetic resonance)、高分解能質量分析などの構造解析を行い、構造を決定します.構造を決定した新規生理活性物質について、抗菌活性や前駆脂肪細胞の分化誘導活性など、有望な生理活性についての検討や発酵製品への応用を進めます.
【平成22年度研究交流の成果】
研究交流活動: 日本側研究者がタイへ延べ6名27日の渡航、タイ側研究者が日本へ延べ2名29日の来日、またラオスとカンボジアより、各々若手研究者をバンコクの大阪大学東南アジア共同研究施設に招へいし、植物内生菌の取得と培養に関する2ヶ月(62日間)のトレーニングと共同研究を行いました.ベトナム側研究者1名が来日し、15日間共同研究を行いつつ、大阪大学でベトナム産微生物についてのセミナーを実施しました.
また日本側研究者1名がカンボジアへ14日間、ラオスへ2名が5日間訪問・滞在し現地で指導を行いました.これにより、タイとベトナムのみならず、ラオスとカンボジアにおいても有用微生物のスクリーニングが確実に開始され、徐々に単離菌株が集積されつつあります.
研究交流の成果: 新規有用生理活性物質の生産においては、土壌放線菌、植物内生菌350種のスクリーニングを終了しました.新規化合物候補を生産する菌株40種を選別し、抗菌活性化合物など8種の化合物の精製が終了し、構造決定に至っています. 乳酸菌に由来するバクテリオシンを迅速、かつ高精度で解析するスクリーニング法が完成し、既知バクテリオシンの迅速同定が可能となり、同時に新規バクテリオシンの発見に成功しました. また、タイ産発酵肉Nhamの生産に使用するスターターへの応用を検討し良好な結果を得ました.
【平成22年度研究交流の目標】
抗生物質や免疫抑制剤など人間社会に有用な化合物の多くは微生物によって生産されますがタイ,ベトナム,ラオス,カンボジアなどの亜熱帯諸国は,生物多様性に富み,未知の微生物の宝庫です.特に植物内に生息する微生物(植物内生菌),昆虫内に生息する微生物(昆虫内生菌),又各国に特有の発酵食品に由来する微生物には未開拓の微生物が多数存在し,有用物質の生産菌として高い可能性を秘めています.
タイ,ベトナム,ラオス,カンボジアの研究者と協同して,これら未開拓のソースより微生物を単離・収集し,その培養生産物から,抗生物質やバクテリオシンなどの人類の役に立つ新規な生理活性物質を見いだし,その化学構造を決定します.又,この生産菌を用いた効率的な生産プロセスを開発します.
【平成21年度研究交流の成果】
植物内生菌、昆虫内生菌や発酵食品などタイの未開拓のソースより放線菌や乳酸菌を単離し、その構造スクリーニング及びLC-MS分析スクリーニング、新規生理活性物質生産菌の絞り込みを経て、培養生産物から、抗生物質やバクテリオシンなどの新規な生理活性物質を単離・構造決定しました.
ラオスとカンボジアにおいて有用微生物の単離、培養を、またベトナムにおいて生理活性物質探索を開始しました.
【平成21年度研究交流の目標】
植物内生菌、昆虫内生菌や発酵食品などタイ、ベトナム、ラオス、カンボジアの未開拓のソースより微生物を単離し、その培養生産物から抗生物質やバクテリオシンなどの新規な生理活性物質を単離・構造決定します.
有用微生物の分離培養法が確率でき、生理活性物質探索法の構築を開始します.
日本側メンバー(2013年 12月現在)
仁平卓也(大阪大学生物工学国際交流センター)
五十嵐康弘(富山県立大学工学部生物工学科)
奥 直也(富山県立大学工学部生物工学科)
園元謙二(九州大学大学院生物資源環境科)
善藤威史(九州大学大学院生物資源環境科)
平田收正(大阪大学薬学研究科生命情報環境科学)
原田和生(大阪大学薬学研究科生命情報環境科学)
木下 浩(大阪大学生物工学国際交流センター)
木谷 茂(大阪大学生物工学国際交流センター)
タイ側メンバー
Prof.Dr.Watanalai Panbangred(マヒドン大学)
Dr.Patoomratana Tuchinda (マヒドン大学)
Dr. Idsada MUNGSANTISUK
Dr.Amonlaya Tosukhowong(タイ王国国立遺伝子工学バイオテクノロジー研究所)
Dr.Wonnop Visessanguan(タイ王国国立遺伝子工学・バイオテクノロジー研究所)
ベトナム側 :Institute of Microbiology and Biotechnology(IMBT),Vietnam National University Hanoi
Dr. Douong Van Hop
Dr. Thao NGUYEN
Dr. Chu thi Thanh Binh
Msc. LE, Thi Hoang Yen
Msc. Hoang Van Vinh
カンボジア側 :Faculty of Science, Royal University Phnom Penh, Cambodia
Mr. HANG, Chan Thon
Mr. THAO, Sokunthia
Mt. Sophorn HAP
Dr.  Piseth KHIEV
Ms. MEAS, Seang Hun
ラオス側 : National Authority for Science and Technology (NAST) Laos PDR
Dr. Sourioudong SUNDARA
Mr. Khampheng PHOTHICTTO
Dr. Kosonh XAYPHAKATSA
Ms. Latsamy VONGVISITH
Ms. Kongchay PHIMMAKONG  
Ms. Phetsamone PHOMMAXAY
Ms. Khamphachanh SIHAVONG 
Mr. PHOMMAVONG Keo

2014.3.18 作成中 TN