生きた微生物は、それ自身が多数の有用な反応系を集積した生体触媒とみなせます.複数の反応を経てはじめて生成する化合物を得ようとする場合、単一の酵素ではなく、望ましい性質を備えた生きた微生物がより有望でかつ高効率の生体触媒となります.本チームは、微生物集団によってサトウキビ廃棄物などのソフトバイオマスの糖化と発酵、得られた糖を利用してバイオエタノールを生産するための耐熱性酵母の取得・解析とエタノール発酵、更には通常の生体触媒が苦手とする疎水性化合物の変換能を持つ微生物の取得と微生物触媒の開発を通じて、有用な生物プロセスを開発します.
【全期間にわたる研究交流活動及び得られた成果の概要】
再生可能なエネルギーのひとつとしてバイオエタノールに注目が集まっています. その代表的な生産微生物として、使用される生産菌株には、生産コスト削減のために高温耐性、エタノール耐性、酸耐性、阻害物耐性等様々な性質が要求されます. 本プロジェクトの目的は、バイオエタノール生産用スーパー酵母を育種することにあります. タイ国で収集した試料から分離し、遺伝解析により、41度の高温で高いエタノール生産を行い得る酵母の育種に成功し、各種原因遺伝子の同定とその機能解明を達成しました. タイ国内でサンプリングされた土壌試料などよりBacillus属およびその近縁種を中心に飽和濃度以上の有機溶媒を含む培養液中でも良好に生育可能な微生物を複数獲得することができました.
【平成25年度研究交流の成果】
研究交流活動:日本側より、1名6日間マヒドン大学に滞在して共同研究に従事しました. また日本人学生がマヒドン大学に、若手研究者が日本に滞在し共同研究を実施しました.
研究交流活動成果:本年度は、前年度までに得られた耐熱性付与、或いはエタノール耐性付与に関与する遺伝子を用いてより高い耐熱性とエタノール生産能を持つ酵母を育種しました. 更に、高エタノール生産性の付与を達成しました. 更に41度の培養温度で与える菌株の育種に成功しました. 植物細胞壁分解性微生物集団については、異なる基質にも展開し、酵素群の取得、解析を行いました. また、バイオガス生産性の向上を達成しました. 有機溶媒耐性微生物については、新たなモデル反応としてGeobacillus属細菌より目的の酵素活性を見出し、酵素の遺伝子の同定と単離を行いました. 41度という高い耐熱性とエタノール耐性を備えた酵母が育種されました. 農産廃棄物糖化プロセスにおいては、菌群の変遷の詳細が明らかとなり、農産廃棄物の分解による発酵原料獲得へ向けて前進しました. また疎水性化合物生産プロセスの開発に必須の形質転換法が確立し、種々異種遺伝子導入とその発現、応用による具体例と改良法が蓄積されました.
【平成25年度研究交流の目標】
前年度までに得られた耐熱性付与、あるいはエタノール耐性付与に関与する遺伝子を用いて、より高い耐熱性とエタノール生産能を持つ酵母を育種します. さらに、前年度までの解析結果に基づき、最低6個ある耐熱化に寄与する遺伝子の更なる同定とその具体的な機能の解析、分子遺伝学的手法による耐熱性の増強、多コピー化によりエタノール耐性を付与する遺伝子群の同定とその応用による高エタノール生産性の付与を検討します.  植物細胞壁分解性微生物集団については、稲ワラなどバガスとは異なる基質に展開し、微生物群の相異、微生物群の経時的変遷プロファイルと各々が基質分解に果たす役割の解析を経て、主たる微生物の同定と生産する酵素群の取得、解析を行います. そして有機溶媒耐性微生物については、より汎用性の高いシステムの構築を目指し、有用疎水性化合物生産を志向する変換反応を検討します.
【平成24年度研究交流の成果】
研究交流活動: 日本人研究者4名が延べ31日間、若手研究者4名が78日間(他経費)タイに滞在しました.  タイ側からは若手研究者を含めて6名が297日間、日本の研究機関に滞在しました.

研究交流活動成果: バイオエタノール生産は、省エネルギー、低コストで実施できることが必要です.24年度は二つの成功がありました.一つは原料である植物廃棄物の分解に適した高温で、同時にエタノール生産が可能な耐熱性・エタノール耐性を備えた酵母の創出に成功したことです、二つ目は分解の困難な植物廃棄物を容易に分解する微生物集団の作成に成功したことです.
これらを合わせて、第2世代のバイオエタノール生産へと至る途が拓けました.
【平成24年度研究交流の目標】
前年度までに得られた耐熱化酵母とエタノール高生産能を有する酵母を掛け合わせ、耐熱性且つエタノール高生産の酵母を育種します. さらに、前年度までの解析結果に基づき、より高い耐熱性を付与すべく検討を開始します. また最低6個ある耐熱化に寄与する遺伝子の同定とその具体的な機能の解析、並びに分子遺伝学的手法による耐熱性の増強を図ります. バガス分解性微生物集団については、微生物群の経時的変遷プロファイルと各々がバガス分解に果たす役割の解析を経て、主たる微生物の同定と生産する酵素群の取得、解析を行います. 有機溶媒耐性微生物については、各種有用疎水性化合物生産を志向する変換反応を検討します.
【平成23年度研究交流の成果】
研究交流活動: 日本側研究者2名が延べ14日間、タイ側研究者2名が6日間、共同研究のためタイ、日本に滞在しました.

研究交流活動成果:  前年度までに得られた耐熱化酵母の解析から、耐熱化に関与する遺伝子が6種あることを明らかにしました. そのうちの2種遺伝子を取得、解析し耐熱化に果たす役割についての検討を終了しました. また、同遺伝子を野生株に導入することで、世界初となる温度でのバイオエタノール生産に成功しています. 
ソフトバイオマスの変換に有効な微生物群については、バガス分解に寄与するセルラーゼ遺伝子の取得に成功しました. バニリンの生産とエポキシヘキサンの生産にも成功しました.

バイオプロセス開発に必要な知識と技術を備えた若手タイ人研究者が定着できました.
【平成23年度研究交流の目標】
前年度までに得られた耐熱化酵母・高脂質酵母、バガス分解能を持つ微生物集団、有機溶媒耐性微生物を用いて、更に解析を進めます.
【平成22年度研究交流の成果】
研究交流活動: 日本側研究者4名がタイに延べ36日滞在し、またタイ側研究者4名が日本に延べ37日滞在し、耐熱性・耐酸性酵母の解析・性能改善、疎水性化合物の微生物による変換反応への応用、並びに脂溶性酵母による脂肪酸生産に関わる共同研究に従事しました.

研究交流活動成果: 植物由来ソフトバイオマスであり、タイの主要な農業廃棄物であるバガス分解に関わる微生物集団の取得に成功し、安定かつ迅速なバガス分解が可能となり、植物由来ソフトバイオマスよりの単糖取得が可能となりました.
また、微生物集団の解析によりバガス分解微生物集団がバラエティに富んだ集団であることが判明しました.
【平成22年度研究交流の目標】
前年度までに得られた耐熱化酵母・高脂質酵母、バガス分解能を持つ微生物集団、有機溶媒耐性微生物を用いて、有効なプロセス開発に必要な諸解析を実施すると同時にその応用による高温高効率バイオエタノール発酵、ソフトバイオマスの糖化と発酵、疎水性化合物の変換プロセスについて検討します.
【平成21年度研究交流の成果】
ソフトバイオマスの分解に有効な微生物集団を確立し、エタノール生産に用いるエタノール耐性を保持する高温耐性酵母、及びバイオディーゼルや食品サプリメント生産に有用な高脂質含量酵母を得ることに成功しました.更に、微生物プロセスが苦手とする難水溶性化合物に有効な有機溶媒耐性微生物を取得し、水・有機溶媒2相系及び非水環境下反応系で良好な物質生産を達成しました.
【平成21年度研究交流の目標】
新規有用触媒の開発とその応用による発酵生産耐熱化酵母の取得・解析とその応用による高温高効率バイオエタノール発酵、微生物集団によるソフトバイオマスの糖化と発酵、疎水性化合物の変換能を持つ微生物取得と微生物触媒の開発を行います.
日本側メンバー(2013年12月現在)
原島俊(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)◎
金子嘉信(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
前川裕美(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
杉山峰崇(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
笹野佑 (大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
大竹久夫 (大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
本田孝祐(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
岡野 憲司(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
福崎英一郎(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
馬場 健史(大阪大学工学研究科生命先端工学専攻)
藤山和仁(大阪大学生物工学国際交流センター)
三崎 亮(大阪大学生物工学国際交流センター)
大橋貴生(大阪大学生物工学国際交流センター)

石井正治(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻)
新井博之(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻)

五十嵐 泰夫(西南大学環境資源学院生物エネルギー/東大名誉教授)6月から
タイ側
Dr.Chuenchit Boonchird(マヒドン大学)
Dr.Thunyarat PATOOMRATANA(マヒドン大学)
Dr.Thipa Asvarak(マヒドン大学)
Dr.Choowong AUESUKAREE(マヒドン大学)
Prof.Dr.Savitree Limtong(カセサート大学)
Dr.Wichien Yongmanitchai(カセサート大学)
Dr.Alisa Vangnai(チュラロンコン大学)
Dr.Verawat Champreda(タイ王国国立遺伝子工学バイオテクノロジー研究所)
Dr.Niran ROONGWAWANG(タイ王国国立遺伝子工学バイオテクノロジー研究所)

T.N 14.March 2014