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生物が創る生命鎖を操り、新しいリアクターを開発する
様々なモデル生物の遺伝子操作技術が確立され、ゲノム配列も次々と解読されている現在、生化学、分子生物学、細胞生物学などいろいろな領域の研究が行われています。私達は“生物工学”という視点から、様々な情報とデータ、知見を駆使し、生物を有用な物質を作る(創る)ための“バイオリアクター”として利用しようと試みています。しかし、ただ物質を作るだけでは生体内で機能しない場合が多く、生産物のクオリティーが生理活性を持つためには非常に重要になってきます。私達の研究室では“生物がつくる鎖”に注目し、よい物質生産を可能にする宿主を創造するため以下の5つの研究を行っています。
*PubMedに記載されている参考文献にについてはPubMedIDにリンクしています。
植物と昆虫の“Glyco-Engineering”
組換え医療用タンパク質の多くは翻訳後修飾を受けている場合が多く、単純な新生ポリペプチド鎖を発現させるだけでは本来の機能を発揮できないことが多々あります。中でも、複数の糖が鎖のようにつながった“糖鎖”は真核生物のタンパク質の多くに含まれており、細胞間相互作用、細胞接着、タンパク質の特定器官へのターゲティング、抗原としてなどの機能性因子として働き、またタンパク質の高次構造、会合体の形成、タンパク質の代謝速度の調節といった調節性因子としても働きます。例えば、赤血球表面の糖鎖構造の違いが血液型を決定し、インフルエンザウイルスのHN型も細胞表面の糖鎖の認識機構の違いにより分類され、糖鎖構造が通常とは異なるタンパク質は血中から速やかに分解される、といった現象などがそれにあたります。このような機能から糖鎖は生命にとって必要不可欠な細胞構成因子であると考えられています。さらに多数の糖転移酵素、グリコシド結合の加水分解酵素の働きにより生体内では時期特異的、細胞特異的な糖鎖が合成され、その糖鎖構造は動物、植物、酵母、昆虫と種特異的な構造を持ちます。
植物と昆虫は高い組換えタンパク質発現能力を持ち、次世代のバイオリアクターとしての大きな期待があります。しかし、糖鎖構造が動物とは異なるため、動物の生体内では異物として認識され、分解されます。そこで、バイオリアクターとして植物、昆虫を利用するにはため生産した組換えタンパク質に最適な構造の糖鎖をつける技術の開発が必要になります。
現在私達は2つのアプローチにより植物と昆虫の糖鎖修飾を理解し、さらに制御しようと試みています。
1.植物と昆虫がもつ糖鎖修飾機能のポテンシャル解析
モデル生物として植物(シロイヌナズナ)と昆虫(カイコ)のゲノム情報をもとに糖鎖を合成する未同定酵素をこれまでに複数同定しています(参考文献1;2;3 ,図1)。さらに、様々な植物培養細胞の細胞内外の糖鎖や、カイコの時間空間的な糖鎖構造を解析し、物質生産に最適な糖鎖構造をもつ時期、器官等を見出しています(参考文献4;5)。また植物や昆虫で発現した糖タンパク質の糖鎖構造を解析することで、糖鎖修飾を改変する際に必須となる情報も集めています(参考文献6; 7; 8)。
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図1 糖鎖修飾経路と私たちが明らかにした糖鎖修飾関連酵素 |
参考文献
1.J Biosci Bioeng., (2012), 113, 48-54
2.Glycobiology, (2010), 20, 736-751
3.Glycobiology, (2010), 20, 235-247
4.Plant Biotechnol., (2012), 29, 489-493
5.Glycobiology, (2003), 13, 199-205
6.Plant Biotechnol., (2018), 35, 375-379
7.Plant Mol Biol., (2017), 95, 593-606
8.Mol Biotechnol., (2013), 54, 784-794
2.植物と昆虫の糖鎖修飾経路の改変
植物と昆虫には動物にない糖が糖鎖に付加されています。哺乳類由来の糖鎖修飾関連酵素遺伝子の導入(参考文献9;10;)や、糖鎖修飾関連酵素の変異体(参考文献11.)、また遺伝子をゲノム編集等で破壊し、私達が望む理想的な糖鎖合成経路を構築しようと試みています(参考文献12)。
参考文献
9.Methods Mol Biol., (2015), 1321, 225-232
10.J Biosci Bioeng., (2011), 111, 471-477
11. Biochem Biophys Res Commun., (2006), 339, 1184-1189
12..J Biol Chem., (2011), 286, 22955-22964
13.Plant Sci., (2015), 240, 41-49.
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“植物工場”による医療用タンパク質生産
これまで医療用タンパク質はチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)などの動物細胞を用い生産していました。近年、植物細胞での一過的発現システムを利用した医療用タンパク質生産が注目を浴びています。(図2)植物で生産した医療用タンパク質が2012年に実際に認可され、インフルエンザワクチンなども植物で生産したものが市場に出回る日もすぐそこまで来ています。
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図2 |
私達は次の世代の医療用タンパク質生産の主役となる植物の物質生産系に対し、より高発現、高品質、高付加価値を付けることを目指した研究を展開し、
植物を用いたワクチン、抗体や医療用酵素等の生産に取り組んでいます(参考文献14;15)
また、実際に一過的発現システムを用い植物で生産した抗体をはじめとする医療用タンパク質の“品質と完成度”を解析し、得られた知見を次のタンパク質生産時のノウハウとして活かそうとしています(参考文献 16;17;18)。
参考文献
14.Int J Mol Sci., (2018),19(7),
15.Plant Biotechnol J., (2016), 14, 1682-1694.
16. Front Plant Sci., (2018), 9:62
17.PLoS Negl Trop Dis., (2013), 7, e2046
18.Transgenic Res., (2012), 21, 1005-1021.
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植物と昆虫の糖鎖生物学
植物と昆虫の糖鎖修飾は生合成経路や細胞内における生理・生化学的機能は不明なことが多く残されていました。
“動物とは異なる構造の糖鎖を持つ意義は?”
この疑問を解消するため、植物に存在する糖鎖修飾関連酵素遺伝子を網羅的に破壊した変異体を解析しました。すると、糖鎖修飾酵素の機能欠損株が根の伸長阻害や環境ストレス耐性の低下を誘発し、糖鎖修飾が根の形成に重要な生理学的機能を持つことを見出しました(参考文献19.)。また、糖鎖が植物細胞内でタンパク質分解シグナルとして機能すること(参考文献20)や、病原菌/微生物感染時に免疫応答を行う受容体の機能に必要なこと(参考文献21)を解明するなど、植物糖鎖修飾の分野において、新たな生化学的機能を明らかにしてきました。
昆虫には未同定糖鎖修飾関連酵素遺伝子が多く残されています。そこで昆虫においては候補遺伝子の選抜、組換えタンパク質の諸性質の解析を通して糖鎖修飾経路を理解しようとしています(参考文献22;23)。
参考文献
19.Proc Natl Acad Sci USA, (2008), 5933-5938
20.BMC Plant Biol., (2016), 16:31
21.Proc Natl Acad Sci USA., (2012), 109, 11437-11442
22.Glycobiology, (2015), 25, 1441-1453
23.Biosci Bioeng., (2015), 119, 131-136.
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